売るときに頼む相手はどうやって選ぶの？

M&Aは仲介業者を介さずとも行うことができます。ところが、多くの事業主は高い手数料を払ってでも仲介業者に依頼します。それは、仲介業者に依頼するメリットが多くあるからです。まず、仲介業者は多くの顧客を抱えているため、自分が売りたい事業にぴったりの買い手を素早く見付けてくれます。そして、その取引相手との交渉の仲介をくれるだけでなく、事業価値の査定や必要書類の準備など、様々な面からサポートしてくれます。売り手と買い手が直接交渉を行うと、価格交渉がうまくまとまらないことが多く、売却までに時間がかかる上、最悪の場合は交渉決裂に至ります。その点、専門知識をもった仲介業者が、第三者視点から冷静に事業価値を判断してくれるので助かります。サービス、技術、人材等経営資源を踏まえて事業価値を判断してくれるため、交渉がスムーズに進むでしょう。また、交渉方法や交渉内容についてのノウハウも築かれているため、取引相手とのトラブルを事前に回避できます。

仲介業者に頼まない場合は、交渉や手続きを全て自分たちで行うことになります。煩雑な手続きに膨大な時間がかかるだけでなく、第三者目線での事業価値の判断が難しくなり、交渉が難航することが予想されます。法律面、税金面での問題や交渉中のトラブルも増える危険が高まり、様々なリスクを抱えることになるでしょう。もし知り合いの税理士、弁護士等でM&A実務に詳しい人がいるのであれば、自分で交渉するというのも一つの選択肢かもしれません。ただし、いくら知人とはいえ、M&Aの取引実務を見てもらうとなれば、100万以上の手数料は考えておく必要がありますので、コストの削減という意味で考えると実際には意味がなくなるかもしれません。

M&Aを依頼する業者は、基本的にはインターネットで探すことが多いです。ホームページから業者の理念や実績を調べた上で、相談や契約の検討に移ります。もし知り合いで実際にM&Aを行った人がいれば、直接紹介してもらうのもいいでしょう。

業者によって、「製造業が中心」「飲食店のM&Aが得意」「中小企業の事業継承を目的としたM&Aが得意」など、得意分野が異なります。業者の実績や規模を確認することはもちろんですが、売却したい事業との相性も考えた業者選びをしましょう。気になる店舗に実際に足を運んだり、複数の業者に相談してから選定したりする方法もあります。

また、M&A仲介業者の中には定期的にセミナーや勉強会を開いている会社もあります。そういったセミナーに参加すれば、M&Aに関する基礎知識を身につけると共に、業者の雰囲気を知るきっかけにもなるでしょう。ただし、セミナーを多数行っている上場M&A仲介会社は、譲渡価格が1億円以下の店舗一店舗の売却のような案件は扱いません。譲渡したい内容に適した規模の業者を選ぶことが重要になります。

M&A仲介業はまだ歴史が浅いため、特に資格は必要なく、法的な縛りもありません。その分、事業主は業者選びを慎重に行わなければなりません。M&A仲介業者選びには、いくつかのポイントがあります。

まず、それなりの実績をもっていることが重要です。特に、自分が売却したいと考えている事業分野での実績がどのくらいあるかを確認しましょう。実績が多いほど、顧客数やノウハウが充実していると予想されるため、交渉がスムーズに進むことが期待できます。また、M&Aを行うにあたっては、事業の内容はもちろん、利益やこれまで投資した私費、隠れたリスクに至るまでのすべてを仲介業者に伝えなければなりません。秘密保持の信頼性という面からも、業者のもつ実績が信頼材料となります。

また、事業売却にあたって客観的なアドバイスをしてくれることが重要です。仲介業者にとっては買い手の方がリピート客となるため、買い手に有利となる交渉内容になりがちです。買い手に偏り過ぎた意見ではなく、時には売り手にとってのデメリットについても話してくれる業者の方が、信頼できると言えるでしょう。

続いて、料金体系の説明も必要です。仲介業者によっては「着手料＋成功報酬料」という体系を取っていることも多くあります。確かに、高額なM&Aとなればそのような報酬体系も一般的ですが、店舗の売却の様な１億円以下の売却案件については、信頼できる「完全成功報酬体系」の会社がたくさんあります。まずはそのような会社に専任で依頼したほうが、譲渡側で余計なストレスを感じずに済むでしょう。

M&Aに関する無料相談を行っている仲介業者も多いため、不安な場合は複数社に相談するのもおすすめです。

以上、M&Aで事業売却を行う際の、業者の選び方について解説しました。 自分の大切な事業を売却するのですから、業者とは信頼を第一に考えましょう。疑問点は契約前にきちんとぶつけ、納得できる答えが得られるかどうかも重要です。自社の利益確保のために売却を押し進めてくる業者ではなく、事業主にとってのデメリットも踏まえながら相談に乗ってくれる業者がベストです。
後悔のないM&Aを行うためにも、業者選びは慎重に行いましょう。